ソフト開発者の皆さんへ

 6月2日に日経テクノロジーオンラインに投稿した記事「Intel社がAltera社の買収に必死だったわけ」を、多くの方々に読んでいただき、身に余るお褒めのことばをたくさんいただきました。ありがとうございました。

 

 今回の記事は、インテルによるアルテラの買収のインパクトが、世の中であまり正しく理解されていないのではないかという思いから、書かせていただいたものです。というのも、今回の出来事を契機に、現在の電子産業のエンジニアのマジョリティーと言えるソフトウエア開発者の仕事のあり方が、大きく変わっていくのではと感じているからです。

プラットフォーム上でのソフト開発

 現在の電子システムでは、ハードウエアの構造や仕様をこと細かに知らなくても、新しいシステムを開発できます。例えハードの仕様が変化したとしても、開発環境がその変化を吸収し、ソフトの開発だけで新しい価値を持った機能を生み出すことができる仕組みが出来上がっているからです。多くのエンジニアは、プラットフォームと呼ぶこうした仕組みがあることを前提に、システム、もっと端的に言えばソフトを開発しています。しかし、こうした前提は、これから崩れてくる可能性があります。


 ソフト技術者にとってのハード開発を容易にする仕組みである「OpenCL」は、こうしたプラットフォームの枠組を、ソフトとハード双方の協調的進化に適用できるようにするものです。ソフト開発者視点のプラットフォームは、これからも発展していくことでしょう。しかし、この仕組みを使いこなすためには、ハード開発の勘所を熟知したソフト開発者である必要があります。ハードの変化は他人事で、ソフト開発だけに徹するエンジニアでは、有効活用は無理でしょう。しかし、現在のシステムエンジニアの多くが、特定のプラットフォームの利用を前提としたソフト開発に留まっているのが現状ではないでしょうか。


 今回の買収は、システム開発の力点が、今後大きくハード寄りに移ることを象徴する出来事です。その先に、非ノイマン型コンピューターを軸とした、提唱から50年を経過した「Mooreの法則」の新しい数十年があるのだと思います。ソフト開発者の皆さん、ライバルに差をつけるため、そしてエンジニアとして生き残るため、ハード開発の勉強を始めることをお勧めします。