期待のドラマと看過できない潮流

 弊社がモデレータをしている日経BP半導体リサーチのコラム「SCR大喜利」のまとめ記事が連休明けに公開されます。今回のテーマは、「ソシオネクストのあしたはどっちだ」と「政策や規制で動く半導体市場」の2本です。大喜利の回答者の皆さまの回答と合わせて、記事をお読みいただけると幸いです。


日本の半導体でドラマがあるとすれば・・・

 テーマ「ソシオネクストのあしたはどっちだ」では、富士通セミコンダクターとパナソニックそれぞれのシステムLSI部門が合併し、この3月にファブレス半導体メーカーとして再出発した同社の今後をアナリストやジャーナリスト、経営者の経験者の方々に見通していただきました。日本の半導体メーカー同士の合併は、とかく後ろ向きな論調の報道が多いのですが、今回の記事では同社が生き残り、成長していくための建設的な道筋を探ることができたと思います。

 

 私は、日本の半導体業界の新しいパラダイムを切り開く可能性があるのは、実はソシオネクストではないかと思っているのです。過去最大級の難しさを抱え、下馬評でもその困難な前途を指摘する声が多い同社。でも稲盛和夫氏の薫陶を受けて新規事業の立ち上げで数々の実績を挙げてきた西口泰夫氏をCEOに、日本の半導体業界の中ではいい意味で異端の経営者である井上あまね氏をCOOに据えた魅力的な経営陣。そして、難しい数々の題材の半導体設計で腕を磨いてきた、富士通、パナソニック両社の技術陣。こうした人々の存在が、気になって仕方がないのです。

 

 半導体産業は、日本以外の地域では確実に成長産業です。今の日本の半導体業界がこの産業の重要性に合った役割を果たすようになるには、次の世代に語り継がれるような画期的なドラマが必要だと思います。世界最強のバルチック艦隊を小国日本が打ち破った日本海海戦のようなドラマを起こせるとすれば、背水の陣であることをはっきりと自覚している同社ではないかと期待しています。


劇薬の利用法

 テーマ「規制や政策で動く半導体市場」では、自動車や医療機器、エネルギーそしてIoTといったこれからの成長が期待されている応用で目立ってきた半導体市場の動きについて、回答者の皆さまに論じていただきました。1990年台後半以降の半導体市場は、パソコン、デジタル家電、スマートフォンといった民生機器の成長に引っ張られて市場が拡大し、技術を進化させてきました。もっと便利な生活がしたい、もっと楽しくなりたいといった消費者の欲求にいかに応えるかが事業を考える上で重要でした。

 

 ところが、将来の成長が嘱望されている応用は、全く違います。社外が抱える数々の問題をいかに解決するかが重要になっています。例えば、自動車やエネルギー関連の市場は、地球環境保護の観点から技術開発が進められています。医療機器では、増え続ける医療費の削減を目指して、技術開発の論点が、重大な病気をいかに治すかから、いかに健康な状態を維持するかに移ってきています。そしてIoTはこうした動きの集大成と呼べるものであるように見えます。

 

 こうした新しい市場を創出・育成していく上で、よくも悪くも大きな役割を演じつつあるのが規制や政策です。社会問題を解決したいと考える国家の意志が、市場を作り出すようになってきたのです。環境規制の強化が、自動車の電子化と電動化を促すような成功例も出ています。一方で、ドイツやスペインなどで太陽光発電による電力を一定価格で買い取る固定価格買取制度(FIT)が終わった途端、この制度をあてにして巨額の投資をした企業が倒産するような失敗例も出ています。市場原理とは別の意思が働く規制や政策は、劇薬です。どのように付き合っていくかは、市場でのプレーヤの意志と見識に委ねられています。